『「病は気から」を科学する』(5)

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ストレスと脳

(闘うべきか、逃げるべきかの)闘争・逃走反応は役に立つものであり、この本能的な反応のおかげで、人類は何百万年もの進化における変化の激しい環境で生き延びてこられた。そのスイッチは一瞬にして入るが、脅威が消えれば、体はふたたびリラックスする。

ライオンに追われるシマウマは闘争・逃走反応を最大限に活用している。狩りが終われば、シマウマは普通の状態に戻り(捕まって食われなかった場合だが)、生理機能も正常に戻る──まさに身も心も穏やかな状態だ。この動物は、追われて逃げまわったことを思い出したり、次回も助かるだろうかとくよくよ悩んだりはしない。

しかし、人間はシマウマとは違う。特に現代の人間は。

人の脳はもっと洗練されているため、失敗から学び、未来のことを考える能力がある──だが、それはつねに心配事を抱えているということでもある。

過去の出来事を思い出し、未来の問題に悩む。これがストレスであり、程度は小さくても、地震に遭ったときと同じ緊急反応を体に引き起こす。

ストレスを抱えた人間は、24時間「闘争・逃走反応」の状態にあり、体は燃料を燃やし、血糖値を上げる。これにより、エネルギーを大いに高めることができるが、長時間続くと、肥満と糖尿病のリスクを高めてしまう。さらに、それが免疫系に大混乱を引き起こす。

慢性的にストレスにさらされていると、コルチゾールがつねに体内に放出された状態になる。すると、ずっとオフスイッチとして作用するため、免疫系が抑制される。あまりに長くストレスがかかりすぎると、オフスイッチが擦り切れ、もう体がコルチゾールに対して見せるべき反応を見せなくなる。すると免疫系が暴走し、アレルギーを起こしやすくなるが、最大の悪影響は慢性炎症だ。炎症レベルが高くなれば、湿疹から多発性硬化症まで、自己免疫疾患が悪化する。さらに時間が経てば、炎症が骨、関節、筋肉、血管など健全な組織を侵食する。

日々の小さなストレスの積み重ねによって、がんのリスクが高くなる。動物実験では、

少なくとも動物では、ストレスがDNA修復機構を妨げること、ナチュラルキラー細胞など、本来、腫瘍と闘う免疫反応の一部を抑えることがわかっている。
さらに、炎症レベルが高まり、傷ついた細胞が排除され、新しい血管の成長が促されると、闘争・逃走反応が、成長しつつある腫瘍がまさに求めているものを与えてしまう。それは、(腫瘍の)成長のための局所的な血液供給と空間だ。様々ながんのマウスにストレスを与えたり、ストレスホルモンのアドレナリンを注射したりすれば、その腫瘍はより速く成長し、広がっていく

ことが分かっている。そればかりではない。

ストレスが多いほど、遺伝子の中にあり細胞分裂の回数をきめているテロメアが短くなる。つまり、細胞の老化が早くなり、ヒトの寿命が短くなる。テロメアが短い人たちは、糖尿病、心疾患、アルツハイマー病、脳卒中など、ストレス性の病気に罹りやすく、早死にする。

ストレスは脳の配線の仕方に影響を及ぼし、人に平静を保たせ、制御する脳の経路そのものを破壊することにより、これから起こる問題に非常に敏感に反応させるのだ。

ストレスは様々な方法で脳を配線し直すことにより、悪環境で苦しんでいる人たちをさらに非常に不利な条件に置き、一生、慢性疾患に縛りつける。この残酷な遺産の存在から、ストレスにさらされている人たちが、今のような選択をする理由、環境がよくなっても、健康への影響に苦しむ理由を説明できる。

脳のこういった変化を予防したり、取り消したりすることはできないのだろうか?

その一つの解決策が「マインドフルネス瞑想」である。

瞑想がストレスを減らし、心身の健康を向上させるという科学的な主張だ。注意しないと、心と体は互いを食い物にするという悪循環に陥る。

マインドフルネス瞑想は、それが起こらないようにしてくれる。自分の思考を意識するようになれば、一歩下がり、不快な考えやストレスを与える考えが、必ずしも現実を表しているわけではないとわかる。感情的に反応する必要などない。それは、脳が生み出す、本能的なBGMのようなおしゃべりにすぎないからだ。いったん、このことに気づけば、そのおしゃべりを静めることができる。

思考が浮かんでも、それに支配される必要はないのだ。

マインドフルネスに基づいた治療法の無作為化対照試験は、これまでに何百と行われてきた。そして、系統的レビューとメタ分析は相次いで、マインドフルネスストレス低減法(MBSR)が慢性痛と不安感を軽減させ、がんを克服した人から健康な被験者まで、あらゆる人のストレスを軽減し、生活の質を向上させるという結論を出している。


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ストレス解消効果は、脳を越えて免疫系にも影響を与えるのだろうか。

今では、多くの研究で、マインドフルネス瞑想が、コルチゾールホルモンや炎症マーカーなど体の生理学的なストレスの兆候を軽減させることがわかっている。
瞑想によりテロメアが保護されるどころか長くなり、細胞の老化を遅らせる可能性があると示唆している。

残念ながら、マインドフルネスストレス瞑想でヒトのがんが小さくなるという確かな実験は存在しない。効果がないと証明されたのではなく、こうした実験をヒトに行なうことの困難さと、製薬企業も政府も資金を出したがらないためである。薬が売れなくなる実験に、製薬企業が資金を出すはずもない。

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