EBMの困った問題点

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EBMとは?

EBM(evidence-based medicine)は「根拠に基づく医療」とも言われます。「がん情報サービス」では、

EBM(Evidence-Based Medicine)は、「科学的根拠に基づく医療」と訳されます。科学的根拠はエビデンスとも呼ばれ、人を対象とした研究(臨床研究)の結果を指します。科学的根拠に基づく医療の本質は、医療者の専門性と患者さんの希望とを総合して医療上の判断を行う考え方と定義されています。科学的根拠の質には高い、低いというレベルがあり、ランダム化比較試験*の結果が最もエビデンスレベルが高いとされています。

* 多数の人に、比較したい治療法を確率的に割り当てて効果や安全性などを評価する臨床試験の方法。

と説明されています。

従来は、最良の治療法を選ぶ方法論として、生理学的原則・知識が重視され、不足の部分を医療者の経験や権威者の推奨が補ってきた。そうしたパターナリズムへの反省として登場してきたものです。

EBM重視への懸念

一方で、EBM至上主義ではないかという批判も起こっています。

  • EBM の対象は忠者集団を構成する平均的患者であり、個別患者ではない
  • 英文で発表されたRCT(ランダム化比較試験)を重視するEBMは、医療の正解は全て論文の中にあるという誤解を招いた
  • RCTで優劣を付けられても、その結果を「自の前の患者」に応用できるか否かが不明である
  • 平均的患者に標準治療を行うべきという考え方自体も揺らぎつつあり、個々の患者は均質でなく、高齢化で個人差は拡大する
  • 個別化医療が求められている所以である

ビッグデータやディープ・ラーニングによる人工知能の進歩で、人間の医師よりも高速で正しい判断ができる時代が目の前に来ようとしている。今は囲碁や将棋の世界でだが、医療の世界にもIBMのワトソンが登場している。

そのとき、マニュアル化されたファストフードの店員と同じことしかできない医師は、IT企業の下僕となっているかもしれない。

東海大学循環器内科教授、後藤信哉氏は、

EBMprecision medicineが解き明かせない部分を重視すること。医師の手が触れることの治療効果や、患者の表情を見ることの診断的意義はデジタル化できない。そうした仕事を大事にして、“病気や患者の分からなさ”と悪戦苦闘することが、マニュアル化の対極にあるのだ

と述べています。

「10人の患者が〇〇療法をやったら、1人のがんが消えました」これは真実を言っているのでしょう。しかし、「あなたのがんの1/10は消えます」は、だれでもウソだと分かります。「あなた」にとってはゼロ%か100%かのどちらかです。エビデンスのある治療法を受けたからといって、エビデンス通りの治療効果があるとは誰も保証できません。

統計的な有意差が証明されているからから、この治療法は正しいと考えるのも短絡的で、統計の嘘に翻弄されているのでしょう。

Aという薬剤に対して、95%の確率で治療した人と治療していない人のアウトカム(生存率など)に「差がある」と考えて良いだろうとの結果がでた場合、「95%以上の確率で有意 = P<0.05で有意」という言い方をします。

すると、めでたくエビデンスがある、ガイドラインに載ることになるわけです。
しかし、これは20回に1回は有意差がない=効果は違わないということです。医学の世界では「20回に1回ウソをつくことはご容赦を」というルールがあるのです。

「有効」でないなら「無効」という考えはまちがっている

統計学的に有意差があり、「有効」だとされる治療であったとしても、その有効性がわずかなら、実地臨床においては使えません。膵臓がんにおけるタルセバがよい例ですね。ごくわずかの違いしかないのに、間質性肺炎などの危険があるので、いまではほとんどの医療機関で使われていません。

大規模な臨床試験で有効性が確認された、というのは、逆に言えば、大規模なサンプル数がなければ有効性が確認されないような治療であり、恐らく劇的な効果が期待できないのです。

統計学的に言えば、サンプル数を大きくすればするほど統計的有意差は出やすくなります。製薬企業などの臨床試験では、多くの患者を集めることに必死になるのはこのためです。

研究のデザインや、データの定義、データを集めるプロセス、そしてデータ解析のプロセスなど、臨床研究における様々なプロセスにおいて結果の統計学的有意差は左右されるのです。

「統計とは、ごくわずかの違いしかないときに、相手を説得する技術である」

逆に、統計的有意差がない(P>0.05)ことは、効果がないことにはなりません。P値だけに関心が向いていると、いわゆるβエラー(第二種の過誤:本当は差があるのに、ないとする誤り。ぼんやりエラー)に陥ることもあります。

P値信仰は危ない

米国統計学会は、こうしたP値信仰に警鐘を鳴らして、2016年3月に声明を発表しています。


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また、こうした“P値信仰”ともいうべき風潮に関して、米国統計学会は2016年3月に声明を発表しました。「Statisticians issue warning over misuse of P values」(Nature. 2016;531:151.)この中で、「科学的な結論、ならびにビジネスや政策上の判断は、P値が特定の閾値を超えるかどうかだけに基づいてなされてはならない」とはっきりと述べられています。

  1. p値は「そのデータがある特定の統計モデルとどれくらい適合しないか」を示し得る
  2. p値は「その仮説が真である確率」は与えないし「ランダムな偶然だけからそのデータが得られる確率」も与えない
  3. 科学的結論及びビジネス・政策上の意思決定は「p値がある特定の閾値を切ったかどうか」だけに拠るべきではない
  4. 適切な推論は完全な(データ及びモデルに関する)レポーティングと透明性を要するべきである
  5. 単一のp値もしくは統計的有意性はその結果の効果や重要性の大きさを測るものではない
  6. p値そのものだけではモデルや仮説に関するエビデンスの良い指標たり得ない

P値と統計的有意差があるなしだけを判断の基準とすることに対して、世界的権威のある医学誌であるがNew England Journal of Medicineが論文で注意を促しているのです。

1978年New England Journal of Medicine (NEJM)に特別論文

統計的な有意差がないために「Negative」とされた71編の臨床試験の結果のうち、点推定値と区間推定値で示すと、実は「Positive」な影響があったと思えるものが多数あることが分かったとし、βエラーを考慮することの重要性を強調しています。

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