代替医療はニセ科学か(3)

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ホメオパシー

ホメオパシーは、「同様なものは同様なものを治すという類似の法則がある」いう考えの基に、ドイツの医師ハーネマンが、1810年の著書「オルガノン」によって提唱した代替医療である。ある症状を引き起こす物質を限りなく希釈して、その病気の患者に投与すると霊的な治癒能力を引き起こすとされている。

レメディと呼ばれるその薬は、限りなく希釈される。例えば30xとは10倍に希釈する作業を30回行なう。中には300c(100倍に希釈する作業を300回繰り返す)というものもある。こうしてもとの物質は「1分子」も残らないほど希釈される。30xではもとの物質は10^30分の1に、300cではなんと10^30000分の1に希釈される。宇宙に存在する原子の総数が10^80程度とされているから、300cに薄めた溶液の中には1分子も残らないことになる。30xでは東京都の水がめである矢木沢ダムに1滴のインクを垂らした方がまだ濃度が濃いほどだ。元の物質の「記憶が水に残る」ことで治癒力を得られるから薄いほどよいのだという考えだが、水にどういう機序で「記憶」が残るのか、「記憶」とはなにかは全く理解不能である。激しく振動している水分子に、どういう「記憶」が残るのか、熱運動によっても破壊されない「記憶」とはなにか。ほかの不純物の「記憶」はどうして残らないのか。

アボガドロ数という概念を知らなかったハーネマンがおかしな理論を提唱することは無理がないとしても、現在でもそれを不思議と思わない人間がたくさんいるということが驚きである。ただ救いはある。レメディは単なる水(を垂らした砂糖)であるから、副作用はあり得ない。治ることはなくても死ぬこともまたあり得ない。「ニセ科学」の代表的な代替医療といっても良いだろう。

アンドルー・ワイルの統合医療

20080909143733697_0001アンドルー・ワイルは現在最も知られた統合医療家でヒーラーである。彼の著書「癒す心、治る力」は全米でベストセラーを続けており、日本でも支持されている。1999年4月、アリゾナ大学健康科学センターにおいて、代替医療の有効性に否定的なアーノルド・レルマンと、肯定派のアンドルー・ワイルがディベート討論をした記録『ディベート討論 代替医療はほんとうに有効か』(オルタナティブ・メディスン別冊)がある。

レルマンは、「代替医療の実践者たちは、心や思念の力を信じ、その力によって物理的現象を変化させたり、疾病を治したりすることが可能だと信じています。これは、基本的に物理学の法則や自然に対する現在科学的観点とは相反する考え方なのです。・・・個人の主観的経験が事実を100%証明するものと確信しているようで、その方法がほんとうに有効であるかどうかを評価するためには、客観的な統計学的に有意なデータを得る必要があるということを、ほとんどが理解していません。」と代替医療に「ニセ科学」との烙印を押す。

一方アンドルー・ワイルは「患者さんに・・・ある方法を試してみて、それが有効であることに気づいたなら、もうそれ以上患者さんに対して効果を証明する必要はありません。治療の有効性を確かめてもらうために、医学雑誌を見せて無作為二重盲検試験の論文を読んでもらう必要などないのです。・・・現在、正当医学で使用されている治療法のうち、厳密な試験を受けているものは30%に満たないとされています。・・・たとえば(心臓の)冠動脈バイパス形成術なども、その効果が証明されていない患者に対して使われています。」と反論している。そして、正当医学を否定しているのではなく、正当医学との統合を目指しているのだと主張する。

「量子論について」

レルマンが、「ワインバーグといった有名な物理学者はほとんど皆、量子理論は、物理的事象への人間の精神の作用についてはまったく触れておらず、非物理的原因によって物理的現象が起きるという考え方を裏付けるようなものではないと述べています。」と質問を出している。それに対してワイルは、ルイス・トーマス博士のコスモス・クラブ賞受賞の際のスピーチを引用し「深い催眠状態にある人の腕に、これはとても熱いですよと言いながら鉛筆を押し当てると、ほんとうに水疱ができてしまうという実験がある。つまり皮膚の特定の部位に自ら火傷をつくり出す方法や、血管やリンパ球や組織中のいろいろな成分に指示してイボを消させる方法を、人間の中枢神経系が知っているというのなら、人間の神経系はすでに生物医学の知識をはるかに超えたところまで進化しているということだ。・・・私が痛感するのは、量子理論のほんとうの意味をなかなか直視なさらない物理学者がたくさんいるということです。量子理論は明らかに、観察者である研究者の気持ちが観察の対象物に影響を及ぼすということを示しているにもかかわらず、物理学者は、仮想の世界の存在である原始未満の粒子を現実の世界へ持ってこようとはしないのです。」と答えている。

ここにはワイルの誤解がある。これはハイゼンベルクの「不確定性原理」を指しているのだと思われるが、不確定性原理は対象物の「運動量」と「位置」を同時に厳密にに知る方法はない、としているのであり、極微の世界で「見る」ということは対象に波長の短い光の粒子を当てるということで、その行為によって対象が影響を受けるということである。(もっとも不確定性原理に対する解釈はいろいろあり、定まっているとは言えないかもしれない)

ただ、人間の「気持ちが対象物に影響を及ぼす」というワイルの主張を指示していないことは確かである。量子論の世界では「シュレーディンガーの猫」というおもしろい思考実験(パラドックス)もあり、その解釈につていて論争が続いている。一つの解釈にエヴェレット解釈というのがあり、多世界解釈ともいわれるが、世界はあらゆる瞬間からたくさんの世界に分岐して存在しているのだというものである。これらの解釈の一部に「観察者が箱を開けて結果を知るという行為によって、結果が左右される」という考えがあり、ワイルの主張はこのあたりを根拠にしているのではないかと思われる。


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しかし、これらは「ミクロのレベル」での量子的な話であり、人間の体(化学反応の集積)における分子レベルでは問題にはならないし、適用するほうが無理であろう。

ワイルの統合医療の考えは、身体的・精神的・霊性という3分野を対象としているが、「霊性」といわれる部分においては「ニセ科学」だと言ってよいように思う。ただ、科学的でないから役に立たないと言っているのではない。「霊性」的な要素を考えることは効果があるかもしれないが、それが科学的かどうかは別の問題である。ワイルがよく持ち出す、念じることによってイボが消失する例や催眠状態の人の腕に水疱ができるという例に関して、残念ながらレルマンからは反論がない。

疑似科学と科学の哲学に紹介した『疑似科学と科学の哲学』において、代替医療の特徴として、

  1. 全体的な視点の強調
    「患部」でなく、体全体がよくならないと病気は治らない
  2. 精神的な側面の強調
    心と体の結びつきを重視する。ただ神秘的な「霊性」を重視するものから「ストレスをためない」というレベルまで温度差がある
  3. 自然治癒力の信頼
    医療は自然治癒力を助けるものであり、治すのは本人である。神秘的な「生命力」に訴える流派から、正当医学でも認めている治癒力まで、ここでも温度差がある
  4. 古代からの知恵の尊重
    伝統医療や民間療法を基礎に置くものが多い。

わたしたちはなぜ「科学」にだまされるのか―ニセ科学の本性を暴く挙げている。代替医療が批判されるのは、正当医学でも認められている穏健な
主張をするものから、いかがわしいものまでが連続的につながっていて、穏健な主張がいかがわしい主張に利用されがちだという点にある。カイロプラクティックは腰痛などに効果があることは正当医学も認めているが、脊柱のゆがみを直すことでガンも治ると主張することがある。また、安保免疫学は、心のありようが白血球数に影響を与えるという点では正当医学だと言えるだろうが、ストレスをなくせばガンも治る、抗がん剤も手術もかえって悪影響であると断言する。代替医療が疑似科学(ニセ科学)といわれるのは、こうした文脈においてである。(つづく)

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